
医療機関や薬局の経営において、薬価差益の計算は最も基本的かつ重要な業務の一つです。薬価差益とは、公定価格である「薬価(販売価格)」と、医療機関や調剤薬局が実際に卸業者から購入する「仕入れ価格」の差から得られる利益を指します。
薬価差益の基本的な計算式は以下の通りです。
薬価差益=薬価−仕入れ価格(税抜)
この式自体は単純ですが、実務ではいくつかの注意点があります。まず、実際には消費税がかかるため、薬局の手元に残る金額は以下のように計算する必要があります。
手元に残る金額=薬価差益−消費税
また、薬価と市場実勢価格の差をパーセンテージで表した数値を「乖離率」と言い、この乖離率を把握することで、より精度の高い薬価差益の試算が可能になります。
参考)薬価差益に依存しない薬局経営~利益を確保しつつ新たな収益源を…
乖離率=(薬価−市場実勢価格)÷ 薬価 × 100(%)
乖離率が高い品目ほど、薬価差益を大きく確保できる可能性がありますが、逆に乖離率が小さい品目では、仕入れ価格の交渉がより重要になります。
参考)【医療とお金の構造論】薬価・市場実勢価格・乖離率・薬価差益|…
薬価差益に依存しない薬局経営~利益を確保しつつ新たな収益~(参考:薬価差益の計算式と乖離率の解説)
2024年10月の診療報酬改定により、後発医薬品(ジェネリック医薬品)があるお薬で、先発医薬品の処方を希望される場合に「特別の料金」のお支払いが必要となりました。
参考)医薬品の自己負担の仕組みが変わります ~長期収載品の選定療養…
この特別料金の計算方法は以下の通りです。
特別料金=(先発医薬品の薬価−後発医薬品の薬価)÷ 4
ここで注意すべき点は、後発医薬品がいくつか存在する場合は、薬価が一番高い後発医薬品との価格差で計算するということです。
参考)https://www.city.gobo.lg.jp/material/files/group/15/iryouhi.pdf
具体的な計算例を示します。
先発医薬品の価格:1錠100円
後発医薬品の価格:1錠60円(最も高い後発医薬品)
価格差:40円
特別料金:40円 ÷ 4 = 10円
この10円が、通常の1~3割の患者負担とは別に特別の料金としてお支払いいただく金額になります。
さらに、令和8年6月からは、この特別料金が価格差の2分の1相当に変更される予定です。
参考)後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について|…
(令和8年6月以降)特別料金=(先発医薬品の薬価−後発医薬品の薬価)÷ 2
先発医薬品を処方・調剤する医療上の必要があると認められる場合等は、「特別の料金」は不要となります。
参考)https://nanao.hosp.go.jp/files/000235476.pdf
後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について(厚生労働省:特別料金の計算方法の詳細)
乖離率の活用は、薬局経営において極めて重要です。乖離率とは、医薬品の市場実勢価格(加重平均値)と薬価の差をパーセンテージで表した数値です。
この乖離率を把握することで、以下のメリットがあります。
市場実勢価格の把握方法としては、以下の方法があります。
特に、薬価基準収載品目リストは厚生労働省から公表されており、後発医薬品に関する情報も含まれているため、価格差計算の基礎資料として不可欠です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/topics/2025/04/tp20250401-01.html
薬価基準収載品目リスト及び後発医薬品に関する情報について(厚生労働省:最新の薬価情報)
長期収載品(後発医薬品のある先発医薬品)の特別料金計算は、医療従事者にとって避けて通れない業務です。ここでは、具体的な計算フローを示します。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001275337.pdf
ステップ1:長期収載品と後発医薬品の価格差の4分の1(または2分の1)を計算
価格差の4分の1=(長期収載品の薬価−後発医薬品の薬価)÷ 4
ステップ2:「特別の料金」に係る費用(A)を求める
「特別の料金」に係る費用(A)=「特別の料金」に係る点数 × 10 ×(1+消費税率)(円)
ステップ3:選定療養を除く保険対象となる費用(B)を求める
保険対象となる費用(B)=選定療養を除く保険対象となる点数 × 10(円)
ステップ4:患者自己負担(C)を求める
患者自己負担(C)=B × 自己負担率(円)
ステップ5:保険外併用療養費を求める
保険外併用療養費=B ×(1−自己負担率)(円)
ステップ6:患者の総負担額を求める
総負担額=C+「特別の料金」に係る費用(A)
この計算フローにおいて、特に注意すべき点は「特別の料金」には消費税がかかるということです。
意外な事実として、特別の料金は高額療養費等の計算の際の一部負担金には含まれないため、患者さんの負担額が想定以上に大きくなるケースがあります。
「長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養における費用の計算について」(厚生労働省:詳細な計算方法)
薬価差益の計算において、多くの医療従事者が見過ごしがちな意外な落とし穴がいくつか存在します。これらを把握しておくことで、精度の高い計算と適切な経営判断が可能になります。
落とし穴1:消費税の計算漏れ
薬価差益の計算では、消費税の計算を忘れるケースが散見されます。特に、特別料金の計算では消費税が追加されるため、患者説明時に誤った金額を伝えてしまうリスクがあります。
参考)後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について|…
落とし穴2:後発医薬品の選択基準の誤解
後発医薬品がいくつか存在する場合、「薬価が一番高い後発医薬品」との価格差で計算するというルールを知らず、平均値や最低値で計算してしまうケースがあります。
参考)https://med.sawai.co.jp/pdf/announce/announce25.pdf
落とし穴3:医療上必要性がある場合の例外適用の誤認
「医療上、必要性がある場合には特別な料金の負担は求められない」という例外規定がありますが、その判断基準が曖昧で、適用漏れや過剰適用が生じています。
落とし穴4:薬価改定のタイミングの把握不足
薬価は2021年度から毎年度改定されており、新年度の4月に全面的に改定となります。このタイミングを把握せず、旧薬価で計算してしまうケースが後を絶ちません。
実務上の注意点:
また、薬価差益に依存しない薬局経営の重要性も高まっており、技術料の向上や新たな収益源の確保が求められています。
【医療とお金の構造論】薬価・市場実勢価格・乖離率・薬価差益(参考:薬価制度の構造と実態)
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