
エリスロポエチン(EPO)は、腎臓で産生される造血ホルモンであり、赤血球系幹細胞に対して分化誘導を刺激し、赤血球産生を促進する糖蛋白ホルモンです。 血中EPO濃度の測定は、生体内での赤血球造血の状態を把握するうえで有用な検査であり、腎性貧血における腎のEPO分泌能評価に有用で、EPO投与の適応と投与量の決定に参考になります。
参考)エリスロポエチン
診療報酬請求において、エリスロポエチン検査(D008「34」または「41」)は、以下のいずれかの目的で行った場合に算定できます。
参考)https://www.ssk.or.jp/shinryohoshu/saikaisyou_torikumi/kashikarepo/kashikarepo_jirei.files/ip046.pdf
これらの目的以外での検査は、原則として診療報酬の算定が認められません。特に注意すべきは、以下の傷病名に対する算定は原則として認められないという点です。
また、慢性腎不全のない腎性貧血(疑い含む。)に対するエリスロポエチンの算定も、原則として認められません。 慢性腎不全のある腎性貧血(疑い含む。)の場合に限り、算定が認められます。
レセプト記載においては、上記の適応病名を正確に記載することが不可欠です。例えば「重度の慢性腎不全」や「骨髄異形成症候群」といった具体的な傷病名を明記し、検査の医学的必要性が審査支払機関に伝わるようにすることが重要です。
エリスロポエチン製剤(エポジン注シリンジ、エスポー注射液等)の投与においても、レセプト記載の適正化が求められます。腎性貧血の記載がない、次の傷病名等に対するエリスロポエチン製剤の算定は、原則として認められません。
エポジン注シリンジの添付文書には、「透析施行中の腎性貧血」及び「透析導入前の腎性貧血」が効能・効果として記載されています。 腎性貧血は、慢性腎不全等の腎機能低下によりエリスロポエチンの産生量が低下することで生じる病態です。
連続携行式腹膜灌流や人工腎臓(透析)施行中に腎性貧血の治療を行うことがあるが、その場合はレセプト上、腎性貧血の記載が基本と考えられます。 したがって、「慢性腎不全」や「人工腎臓施行中」といった傷病名のみで記載せず、「腎性貧血」という傷病名を必ず併記することが、レセプト審査通過の鍵となります。
医療機関によっては、透析患者に対するエリスロポエチン製剤投与の際に「慢性腎不全」のみを記載し、減点対象となるケースが散見されます。 審査支払機関の立場からは、腎性貧血の記載がない場合は、エリスロポエチン製剤の医学的必要性が不明確と判断されるため、原則として不承認となります。
骨髄異形成症候群(MDS)は、造血幹細胞において染色体異常や遺伝子変異により、血球細胞の形態学的な異常(異形成)が生じることを特徴とする骨髄不全症候群です。 MDSの約70%を占める低リスクMDSの基本的な治療方針は、輸血依存の回避です。
参考)骨髄異形成症候群に伴う貧血に赤血球成熟促進薬:日経メディカル
2024年1月18日には、赤血球成熟促進薬ルスパテルセプト(遺伝子組換え)(商品名レブロジル皮下注用25mg、同皮下注用75mg)の製造販売が承認され、適応は「骨髄異形成症候群に伴う貧血」となっています。 この nuova therapeutic option の登場により、エリスロポエチン製剤不応のMDS患者に対する新たな選択肢が加わりました。
エリスロポエチン不応のMDS症例において、レナリドミド(LEN)は遺伝子組み換えエリスロポエチン製剤への感受性を回復させ、それにより、LEN単剤と比較してより高率かつ持続する赤血球反応(MER)が得られたという報告があります。 日本ではレナリドミドに適応がない非5q-MDSにおいて、EPOαにLENを上乗せすることで、LEN単剤よりも貧血がより改善することが示されました。
参考)https://ameblo.jp/iizukablood/entry-12652666575.html
レセプト記載においては、「骨髄異形成症候群に伴う貧血」という傷病名を明記し、エリスロポエチン検査または製剤投与の医学的必要性が明確に伝わるようにすることが重要です。
エリスロポエチン検査の主要な適応の一つに、赤血球増加症の鑑別診断があります。 多血症に関しては、循環赤血球量が増加している絶対的多血症と増加していない相対的多血症(脱水など)に分類されます。
参考)https://www.s-cyuken.co.jp/library/56b978613951d6ec3d3cf616/56e6699101fe518a7fd2583a.pdf
このうち絶対的多血症でEPO値が高値を示すものを二次性多血症、示さないものを真性多血症と診断します。 真性赤血球増加症ではEPO値が低値を示すのに対し、二次性赤血球増加症やエリスロポエチン産生腫瘍ではEPO値が高値を示します。
参考)エリスロポエチン(EPO)|その他|内分泌学検査|WEB総合…
エリスロポエチン値を測定することで、真性赤血球増加症(PV)と二次性赤血球増加症を鑑別でき、その後の治療方針決定に直結します。PVの場合はJAK2阻害薬やハイドロキシウレアなどの治療が選択され、二次性赤血球増加症の場合は原因疾患(低酸素状態、エリスロポエチン産生腫瘍など)の治療が優先されます。
レセプト記載においては、「赤血球増加症の鑑別診断」という目的を明記し、該当する傷病名(真性赤血球増加症疑い、二次性赤血球増加症疑い等)を正確に記載することが、審査通過の要件となります。
意外な事実として、エリスロポエチン検査は「慢性腎不全疑い」や「慢性腎臓病」といった傷病名では算定が認められないという点があります。 これは、多くの医療機関が誤解しているポイントであり、審査支払機関からの指摘事例が多数報告されています。
厚生労働省通知において、エリスロポエチン検査は「重度の慢性腎不全患者又はエリスロポエチン、ダルベポエチン、エポエチンベータペゴル若しくはHIF-PH阻害薬投与前の透析患者における腎性貧血の診断」という限定的な適応に制限されています。
「慢性腎臓病」や「腎不全疑い」という傷病名は、慢性腎不全の「確定診断」を意味せず、エリスロポエチン検査の医学的必要性が不明確と判断されるため、原則として不承認となります。 また、慢性腎不全のない腎性貧血(疑い含む。)に対する算定も、原則として認められません。
エリスロポエチンは、腎不全における腎性貧血の診断に有用であることから、腎不全疑い、慢性腎不全疑い、慢性腎臓病、慢性貧血、並びに慢性腎不全のない腎性貧血に対する算定は、原則として認められないと判断されています。
この制限の背景には、エリスロポエチン検査が高価な検査である(213点)こと、および不適切な使用による医療費増大を防ぐための政策判断があります。 医療機関側は、適応病名を正確に把握し、レセプト記載を適正化することが求められます。
一般46 腎性貧血等に対するエリスロポエチンの取扱い(社会保険診療報酬支払基金)
【検査】46 エリスロポエチンの算定について(社会保険診療報酬支払基金)
【注射】557 エリスロポエチン製剤(腎性貧血のない患者)の取扱い(社会保険診療報酬支払基金)
【第1類医薬品】リアップX5 60mL