
エリスロポエチン(EPO)検査の診療報酬請求において、レセプトに記載する病名と適応は審査の焦点となります。保険診療で算定可能なエリスロポエチン検査(区分番号D008「41」、生化学的検査Ⅱ、209点+判断料144点)は、以下の3つの目的に限定されています。
参考)エリスロポエチン
| 目的 | 具体的な病態・状況 | 傷病名の記載例 |
|---|---|---|
| ① 赤血球増加症の鑑別診断 | 真性赤血球増加症 vs 2次性赤血球増加症の鑑別 | 真性多血症疑い、多血症、赤血球増加症 |
| ② 腎性貧血の診断 | 重度の慢性腎不全患者またはエリスロポエチン・ダルベポエチン・エポエチンベータペゴル・HIF-PH阻害薬投与前の透析患者 | 慢性腎不全、腎性貧血、透析患者 |
| ③ MDSに伴う貧血の治療方針決定 | 骨髄異形成症候群(MDS)に伴う貧血でESA治療の適応判断 | 骨髄異形成症候群、MDS、MDSに伴う貧血 |
厚生労働省の「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」および支払基金の審査取扱いにおいて、上記以外の傷病名での算定は原則として認められません。 特に注意すべきは、「慢性腎臓病」「慢性貧血」「腎不全疑い」「慢性腎不全疑い」といった病名単独では算定不可とされている点です。
支払基金 検査46 エリスロポエチンの算定について(PDF)
上記リンクは、エリスロポエチン検査の算定基準と審査上の取扱いを公式に示した文書です。
腎性貧血におけるエリスロポエチン検査の算定は、最も頻度が高い用途ですが、その適応には厳格な条件が付帯しています。診療報酬請求上、以下のいずれかの条件を満たす患者に対して実施された場合に限り、算定可能です。
参考)エリスロポエチン(EPO)|その他|内分泌学検査|WEB総合…
「慢性腎不全のない腎性貧血」に対するエリスロポエチン検査の算定は、原則として認められません。 つまり、慢性腎臓病(CKD)ステージG1~G3で腎性貧血が疑われる場合でも、エリスロポエチン検査は保険診療では算定できない可能性が高いです。
意外な注意点として、レセプト上の傷病名欄に「慢性腎不全」と「腎性貧血」の両方を記載することが強く推奨されます。「慢性腎不全」単独では腎性貧血の存在が不明確であり、「腎性貧血」単独では慢性腎不全の有無が不明瞭となるため、審査で減点されるリスクがあります。
また、HIF-PH阻害薬(ロキサデュスタット、ダプロデュスタット、バダデュスタット、エナロデュスタット、モリデュスタット)は、2020年以降の診療報酬改定で腎性貧血治療薬として追加されましたが、エリスロポエチン検査の算定条件においては「HIF-PH阻害薬投与前の透析患者」と明記されています。 保存期CKD患者に対するHIF-PH阻害薬投与前のEPO検査は、現時点では算定対象外となる解釈が一般的です。
骨髄異形成症候群(MDS)に伴う貧血は、2014年12月の診療報酬改定でエリスロポエチン検査の算定対象に追加されました。 この改定の背景には、MDSに対するエリスロポエチン製剤(ESA)の治療適応拡大があります。
MDS患者におけるエリスロポエチン検査の臨床的意義は、以下の点に集約されます。
診療報酬算定方法の一部改正お知らせ(MDS適応追加)
平成26年(2014年)12月18日適用の改定で、MDSに伴う貧血の治療方針決定がエリスロポエチン検査の算定対象に追加されたことを示す公式通知です。
2024年1月には、赤血球成熟促進薬ルスパテルセプト(商品名レブロジル)がMDSに伴う貧血で承認され、MDS治療の選択肢が拡大しました。 しかし、レブロジルはTGF-βスーパーファミリーのリガンドトラップであり、エリスロポエチンとは作用機序が異なるため、レブロジル投与前のエリスロポエチン検査の必要性は明確ではありません。現時点では、ESA治療の適応判断のためにエリスロポエチン検査を実施し、その結果を元にESA不応例としてレブロジルを検討する流れが一般的です。
参考)骨髄異形成症候群に伴う貧血に赤血球成熟促進薬:日経メディカル
赤血球増加症の鑑別診断は、エリスロポエチン検査の伝統的な適応の一つです。エリスロポエチン値を測定することで、真性赤血球増加症(PV)と2次性赤血球増加症を鑑別できます。
| 病型 | 血清エリスロポエチン値 | 機序 |
|---|---|---|
| 真性赤血球増加症(PV) | 低値(基準値以下) | JAK2遺伝子変異による骨髄の自律的増殖。EPO産生は抑制される |
| 2次性赤血球増加症 | 高値(基準値以上) | 低酸素状態(肺疾患、心疾患、高所居住)やEPO産生腫瘍(腎細胞がん、肝細胞がん、小脳血管腫など)によるEPO産生増加 |
真性赤血球増加症疑いでエリスロポエチン検査を実施する場合、レセプト上の傷病名は「真性多血症疑い」「多血症」「赤血球増加症」などが適切です。「 полиц ythemia vera(PV)」という和名表記も一般的ですが、レセプト上の傷病名コードと比較して、審査上問題ないか確認が必要です。
ちなみに、2016年のWHO分類改訂以降、真性赤血球増加症の診断基準において、血清エリスロポエチン値は「参考所見」として位置づけられ、JAK2遺伝子変異の検出が必須項目となっています。 しかし、診療報酬上のエリスロポエチン検査の算定目的は「赤血球増加症の鑑別診断」であり、JAK2変異の有無にかかわらず、多血症の鑑別診断として実施した場合は算定可能です。
参考)https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/clinical_practice_51_6_510.pdf
エリスロポエチン検査のレセプト請求において、最も注意すべきは「算定不可」とされる傷病名での請求です。支払基金の審査取扱いにおいて、以下の傷病名等に対するエリスロポエチン検査の算定は、原則として認められないと明記されています。
これらの傷病名でエリスロポエチン検査を請求すると、審査で減点(返戻または点cut)される可能性が極めて高いです。特に「慢性腎臓病」は臨床現場で頻用される病名ですが、エリスロポエチン検査の算定条件である「重度の慢性腎不全」または「透析患者」に該当しない限り、算定できません。
意外な落とし穴として、「透析患者」という傷病名単独でも算定不可とされる場合があります。透析患者であっても、エリスロポエチン製剤やHIF-PH阻害薬の投与前に「腎性貧血の診断」目的で実施されたことが明確でなければ、審査で否認されるリスクがあります。 したがって、レセプト上の傷病名欄には「慢性腎不全」「腎性貧血」「透析患者」を併記し、さらに「透析導入前」または「ESA投与前」といった医学的必要性を症状詳記欄に記載することが望ましいです。
支払基金 注射557 エリスロポエチン製剤(腎性貧血のない患者)の算定について(PDF)
エリスロポエチン製剤の算定条件と、腎性貧血の記載がない場合の審査取扱いを解説した文書です。検査の算定基準と併せて参考になります。
エリスロポエチン検査の結果を解釈する上で、基準値と異常値を示す疾患の理解は必須です。施設や測定キットにより若干の差異はありますが、概ね以下の基準値が採用されています。
エリスロポエチン値が異常値を示す疾患は、以下の通りです。
| 異常 | 疾患 | 機序 |
|---|---|---|
| 高値(増加) | 再生不良性貧血 | 骨髄造血機能低下により、フィードバック機構でEPO産生が増加 |
| 鉄欠乏性貧血 | 赤血球産生に鉄が不足し、EPO産生が代償的に増加 | |
| 2次性赤血球増加症 | 低酸素状態(肺疾患、心疾患、高所居住)またはEPO産生腫瘍(腎細胞がん、肝細胞がん、小脳血管腫) | |
| 骨髄異形成症候群(MDS) | 骨髄の造血機能不全により、EPO産生が代償的に増加 | |
| 低値(減少) | 腎性貧血・慢性腎不全 | 腎臓のEPO産生細胞(線維芽細胞様間質細胞)が減少し、EPO産生が低下 |
| 真性赤血球増加症(PV) | JAK2変異による骨髄の自律的増殖。EPO産生は抑制される | |
| 腎障害 | 腎実質の障害によりEPO産生が低下 |
臨床現場で頻用されるのは、貧血患者におけるEPO値の解釈です。貧血の程度に応じてEPO値は上昇する(貧血が重くなるほどEPO値は高くなる)のが生理的ですが、腎性貧血ではこのフィードバック機構が破綻し、貧血の程度に比してEPO値が低値に留まります。 この「不適切に低いEPO値」が腎性貧血の診断的所見となります。
一方、EPO値が基準範囲内または高値である腎不全患者は、「腎性貧血ではない(貧血の原因は他にある)」または「EPO産生能は保たれている」と解釈できます。このような患者に対してエリスロポエチン製剤を投与しても、効果が期待できないため、治療方針の決定に際してエリスロポエチン検査は有用です。
現行の算定条件(2024年時点)では、「重度の慢性腎不全患者またはエリスロポエチン、ダルベポエチン、エポエチンベータペゴル若しくはHIF-PH阻害薬投与前の透析患者における腎性貧血の診断」と明記されています。 この記述から、以下の点が読み取れます。
HIF-PH阻害薬は、内因性エリスロポエチンの産生を誘導する作用機序を持つため、HIF-PH阻害薬投与前にエリスロポエチン値を測定することで、内因性EPO産生能を評価し、治療効果の予測に役立てることができます。 しかし、現時点ではHIF-PH阻害薬の適応は透析患者に限られており、保存期CKDへの適応拡大は今後の臨床試験の結果を待つ状況です。
参考)HIF-PHD阻害薬:腎性貧血の新たな治療手段 (臨床雑誌内…
日本腎臓学会 HIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation(PDF)
HIF-PH阻害薬の作用機序、臨床的意義、適正使用に関する日本腎臓学会の提言です。腎性貧血治療の最新動向を把握するのに役立ちます。
エリスロポエチン製剤(ESA)を投与しても貧血が改善しない状態を、「エリスロポエチン抵抗性(EPO抵抗性)」と呼びます。 透析患者の約10~20%がEPO抵抗性を示すとされ、その原因は多岐にわたりますが、大別して以下の3つに分類されます。
参考)http://www.jinzouzaidan.or.jp/_assets/fkzn_qa/42/42_qa02.pdf
参考)貧血で心不全が増悪したり、心不全で貧血を合併したりするのはな…
EPO抵抗性が認められる場合、まず鉄代謝マーカー(血清フェリチン、TSAT、可溶性トランスフェリン受容体)を評価し、鉄欠乏の有無を確認します。鉄欠乏が否定された場合、炎症マーカー(CRP、IL-6)や副甲状腺ホルモン(PTH)、骨髄所の検討が必要です。
2024年1月、赤血球成熟促進薬ルスパテルセプト(商品名レブロジル)が、骨髄異形成症候群(MDS)に伴う貧血で製造販売承認されました。 ルスパテルセプトは、TGF-βスーパーファミリーのリガンドトラップであり、エリスロポエチンとは作用機序が異なります。
| 薬剤 | 作用機序 | 適応 | 投与経路 |
|---|---|---|---|
| エリスロポエチン製剤(ESA) | 骨髄の赤血球前駆細胞上のEPO受容体を刺激し、赤血球産生を促進 | 腎性貧血、MDSに伴う貧血 | 皮下注または静注 |
| ルスパテルセプト(レブロジル) | TGF-βスーパーファミリーのリガンド(アクチビン、GDF11など)をトラップし、赤血球成熟を促進 | MDSに伴う貧血(輸血依存性の低リスクMDS) | 皮下注(3週間間隔) |
ルスパテルセプトの臨床試験(MEDALIST試験)では、輸血依存性の低リスクMDS患者において、約38%の患者で輸血非依存が達成されました。 ESA治療不応例またはESA不適格例のMDS患者において、ルスパテルセプトは新たな治療選択肢となります。
レセプト上の注意点として、ルスパテルセプトは「骨髄異形成症候群に伴う貧血」の適応ですが、エリスロポエチン検査の算定条件は「骨髄異形成症候群に伴う貧血の治療方針の決定」です。 つまり、ルスパテルセプト投与前にエリスロポエチン検査を必須とする明記はありませんが、MDS患者の貧血治療方針を決定する過程で、ESA治療の適応を評価するためにエリスロポエチン検査を実施した場合は、算定可能です。
参考)https://archive.okinawa.med.or.jp/html/kaigo_iryo/iryo/pdf/h270117-2i.pdf
エリスロポエチン検査のレセプト請求で審査を通過させるためには、傷病名欄の記載と症状詳記の充実が鍵となります。以下のポイントを意識して記載しましょう。
厚生労働省 診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(PDF)
エリスロポエチン検査の算定条件と、HIF-PH阻害薬に関する留意事項が記載された公式文書です。
さらに、審査で有利となる記載例を以下に示します。
これらの記載は、エリスロポエチン検査の医学的必要性を明確に示し、審査で減点されるリスクを低減します。医療事務担当者の方は、医師と連携して、症状詳記欄の充実を図ることをお勧めします。
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