痛覚過敏 原因 神経損傷と中枢感作の仕組み

痛覚過敏の主な原因として神経損傷、オピオイド使用、炎症、中枢感作が挙げられます。末梢と中枢のメカニズム、意外な要因であるセロトニン系機能低下について詳しく解説します。なぜ些細な刺激が激痛に変わるのか、その背後にある神経可塑性の変化とは?

痛覚過敏 原因

痛覚過敏 原因の主要要素
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神経損傷による末梢感作

外傷や疾患で神経が傷つき、痛み閾値が低下

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オピオイド誘発性痛覚過敏

鎮痛薬の長期使用で逆に痛みが増強

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炎症性メディエーターの影響

プロスタグランジンなどが受容体を過敏化


痛覚過敏とは、通常では痛みを感じない程度の刺激や、軽度の刺激に対して異常に強い痛みを感じる状態を指します。この状態は、単なる「痛みやすい体質」といった表面的な問題ではなく、神経系における複雑な生理学的・分子生物学的な変化が背景に存在します。


参考)https://www.apollohospitals.com/ja/symptoms/hyperalgesia


医療現場では、痛覚過敏を有する患者に対して、なぜこのように痛みが増強するのか、その原因を正確に理解することが適切な治療方針の決定に不可欠です。本稿では、痛覚過敏の主要な原因として確立されている神経損傷、オピオイド使用に伴う現象、炎症性変化、そして中枢神経系における感作(中枢感作)の各メカニズムについて、最新の知見を交えて詳細に解説します。


参考)痛覚過敏とは?あなたの体が感じる痛みを知ろう共起語・同意語も…


痛覚過敏 原因 神経損傷と末梢性感作の機序



痛覚過敏の最も直接的な原因として、外傷や手術、疾患による神経損傷が挙げられます。神経が物理的に損傷を受けると、その部位および周辺で様々な分子生物学的な変化が生じ、結果として痛みに対する感受性が著しく亢進します。



末梢性感作とは、侵害受容器(痛みを感じる受容器)の閾値が低下し、通常では痛みを感じないような刺激でも痛みとして感知されるようになる状態です。この現象は、炎症性メディエーターの放出と密接に関連しています。


参考)慢性疼痛の病態生理学—末梢から中枢神経系のメカニズムと臨床的…


炎症が生じた部位では、ブラジキニンやプロスタグランジンなどの発痛物質が産生されます。特にプロスタグランジンE2(PGE2)は、それ自体には発痛作用はありませんが、知覚神経終末の痛覚閾値を低下させ、過敏状態を作り出すことが知られています。


参考)痛みと炎症メディエータ (神経研究の進歩 42巻3号)


自然科学研究機構 生理学研究効率の研究成果:プロスタグランジンによる炎症性疼痛発生機序の解明
この研究では、PGE2がEP1受容体に作用し、PKC依存的にカプサイシン受容体TRPV1をリン酸化して機能増強をもたらすことが明らかになっています。


具体的には、以下のメカニズムが働いています。


  • 炎症部位でプロスタグランジンが産生される
  • プロスタグランジンが侵害受容器の受容体(EP1、IP受容体)に結合
  • Gq蛋白質の活性化を介してPKC(プロテインキナーゼC)が活性化
  • PKCがTRPV1チャネルをリン酸化
  • TRPV1の機能が増強され、痛覚過敏が発現


TRPV1は、カプサイシン(唐辛子の辛味成分)や熱刺激を感知する受容体であり、これが過敏化することで、通常では問題にならない程度の温度変化や軽微な刺激でも強い痛みとして感知されるようになります。


参考)プロスタグランジンによる炎症性疼痛発生機序の解明 - 生理学…


また、神経損傷時には、C線維からの神経伝達物質の放出パターンも変化します。通常、C線維からはグルタミン酸、サブスタンスP、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)などの興奮性神経伝達物質が放出されますが、神経損傷によりこれらの放出量が増加し、脊髄後角の二次ニューロンを過剰に興奮させることで痛覚過敏が維持されます。


参考)中枢性感作症候群と中枢感作-概論- - リハきそ


痛覚過敏 原因 オピオイド誘発性痛覚過敏(OIH)の分子メカニズム

痛覚過敏の意外な原因として、鎮痛薬であるオピオイドの長期使用が挙げられます。これは「オピオイド誘発性痛覚過敏(Opioid-Induced Hyperalgesia:OIH)」と呼ばれ、臨床的に重要な問題となっています。


参考)26 オピオイド誘発性痛覚過敏 (LiSA 別冊 29巻2号…


オピオイドは本来、痛みを軽減する目的で使用される薬物ですが、長期間あるいは高用量で使用すると、鎮痛耐性ばかりか、逆に痛みを誘発することがあります。この現象は、一見矛盾するように思えますが、分子レベルで明確なメカニズムが解明されています。



AMED 研究成果:脊髄ミクログリアに発現するモルヒネ誘発性痛覚過敏の原因分子を同定
九州大学の研究グループは、モルヒネの連日投与が脊髄ミクログリアに特異発現するBKチャネルα/β3サブタイプを活性化し、痛覚過敏を引き起こすことを発見しました。


OIHの発現メカニズムは、以下の複雑な分子カスケードを介しています。


  • モルヒネがμオピオイド受容体に結合
  • アラキドン酸の合成が誘導される
  • 脊髄ミクログリアに発現するBKチャネル(α/β3サブタイプ)が活性化
  • 脳由来神経栄養因子(BDNF)が分泌される
  • 脊髄後角における二次ニューロンのKCC2がダウンレギュレーション
  • クロライドイオン(Cl-)の恒常性が破綻
  • 通常は抑制的に働くGABAが、逆に脱分極を引き起こす


可知記念病院 スタッフブログ:慢性疼痛について:その6
この機序により、抑制性ニューロンから放出されたGABAが二次ニューロンを過分極ではなく脱分極させてしまい、痛み信号が増幅されます。


さらに、NMDA受容体の活性化もOIHの発現に重要な役割を果たしています。NMDA受容体は、中枢感作の鍵となる受容体であり、その活性化により細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇し、神経興奮性が持続的に亢進します。


参考)https://www.sapporoconference.com/general_info/popup37-ja.html


臨床的には、レミフェンタニルなどの短時間作用型オピオイドで特にOIHが顕著に現れることが報告されています。レミフェンタニルは0.32mcg/kg/min以上の投与量で痛覚過敏を誘発する可能性があり、麻酔科医はこの現象を常に念頭に置く必要があります。


参考)https://tokyo-mc.hosp.go.jp/wp-content/uploads/2022/11/000153721_22.pdf


OIHの重要な特徴として、以下の点が挙げられます。


  • オピオイドの用量を増やしても痛みが軽減しない、むしろ増悪する
  • 痛みが投与部位以外の広範囲に広がる
  • アロディニア(通常は痛みを感じない刺激で痛みを感じる)を呈する
  • オピオイドの減量や中止で症状が改善する


痛覚過敏 原因 中枢神経感作と脊髄後角の可塑的変化

痛覚過敏の根本的な原因として、中枢神経系における「感作(sensitization)」と呼ばれる現象が最も重要です。中枢感作とは、脊髄レベルおよび脳レベルでの神経可塑性変化により、痛み信号の伝達が増幅される状態を指します。


参考)https://bsd.neuroinf.jp/w/index.php?title=%E7%97%9B%E8%A6%9A&mobileaction=toggle_view_desktop&printable=yesmobileaction=toggle_view_desktophref="https://bsd.neuroinf.jp/w/index.php?title=%E7%97%9B%E8%A6%9A&mobileaction=toggle_view_desktop&printable=yes">https://bsd.neuroinf.jp/w/index.php?title=%E7%97%9B%E8%A6%9A&mobileaction=toggle_view_desktop&printable=yesprintable=yes" target="_blank" rel="noopener">痛覚 - 脳科学辞典


国際疼痛学会(2011)は、中枢感作を「正常あるいは閾値以下の求心性入力に対して示す、侵害受容ニューロンの亢進した反応性」と定義しています。



リハきそ:中枢性感作症候群と中枢感作-概論-
中枢感作は脊髄レベルでの神経可塑性変化と、脳レベルでの神経可塑性変化の2つに大別して考えることができます。


脊髄レベルでの感作メカニズムとして、「wind up」と呼ばれる現象が知られています。C線維からの頻回な刺激が持続すると、脊髄ニューロンに以下の変化が生じます:


参考)4. 痛みの閾値変化(過敏)


  • 一回の刺激により多数の発火を起こすようになる
  • 刺激を止めても発火活動がしばらく続く
  • 神経興奮性が持続的に亢進


このwind up現象の分子メカニズムの中心には、NMDA受容体が関わっています。頻回な刺激入力により、細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇し、マグネシウムイオンが外れてチャンネルが開通状態となります。一度この活性状態になると、少しのNMDA受容体刺激でも大量のカルシウムイオンが細胞内に流れ込むようになり、神経興奮性が持続的に亢進します。



さらに、転写因子の発現増加も重要な役割を果たします。c-fosなどの転写因子の発現が増加すると、シグナル伝達による疼痛メディエーターが増幅され、脊髄ニューロンに可塑的な変化がもたらされます。



慢性疼痛では、以下のような多層の連鎖で説明できます:



  • 末梢性感作:炎症メディエーターにより受容器閾値が低下
  • 脊髄での中枢性感作:NMDA受容体の過敏化、ERKの活性化
  • 下行性調節の失衡:抑うつや不安を合併する患者で機能低下
  • 大脳ネットワーク(pain matrix)の可塑的変化:画像所見との乖離


痛みと鎮痛の基礎知識:痛み刺激による(可塑的)変化
神経損傷性疼痛と炎症性疼痛では、いずれもNMDA受容体の過敏化が生じますが、神経損傷時にはグリア細胞(アストロサイト、ミクログリア)の著明な変化が加わります。


痛覚過敏 原因 セロトニン系機能低下と下行性疼痛抑制系の破綻

痛覚過敏の原因として、あまり注目されていないが極めて重要な要因に「セロトニン系神経機能の低下」があります。これは、痛覚過敏を呈する患者の背景に、精神的なストレスや不安、抑うつなどの心理的要因が関与しているケースで特に重要です。


参考)痛みに反応しやすい人・感覚過敏 【精神科医が解説】


セロトニン系は、内因性の鎮痛機能を担う下行性疼痛抑制系の重要な構成要素です。セロトニン神経は脊髄後角に通じており、延髄・大縫線核-脊髄後角系として、内因性に痛覚をコントロールする重要な役目を担っています。



名駅さこメンタルクリニック:痛みに反応しやすい人・感覚過敏【精神科医が解説】
セロトニン系の神経が機能低下を起こしている場合、内因性の鎮痛機能が働かず、些細な刺激に痛がることがあります。


下行性疼痛抑制系の機能が低下すると、以下の状態が生じます。


  • 脊髄後角への抑制性入力が減少
  • 痛み信号の伝達が抑制されなくなる
  • 通常では無視される程度の刺激でも痛みとして感知
  • 痛みが悪循環的に増強


痛覚過敏を呈する患者では、セロトニン系の機能障害が疑われる場合があります。この場合、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)によるセロトニンを補う抗うつ薬が有効であることが報告されています。



また、慢性疼痛患者では、脳脊髄液(CSF)中のノルアドレナリンやセロトニンの濃度は低下しているのに対し、内因性オピオイド濃度は上昇しており、脳内のμ-オピオイド受容体の数や利用能が低下しているという報告があります。


参考)慢性疼痛について:その6| スタッフブログ |愛知県豊橋市の…


Apollo Hospitals:痛覚過敏症 - 原因、診断、治療
痛覚過敏は、ストレスによっても引き起こされる可能性があります。ストレスは脳が痛みの信号に対してより敏感になる中枢感作の一因となります。


痛覚過敏 原因 炎症性サイトカインとグリア細胞の異常活性化

痛覚過敏の発現には、炎症性サイトカインとグリア細胞(特にミクログリアとアストロサイト)の異常活性化が重要な役割を果たしています。


参考)http://plaza.umin.ac.jp/~beehappy/analgesia/react-plasticity.html


神経損傷や炎症時には、ミクログリアとアストロサイトが著明に活性化されます。ミクログリアは、増殖と肥大化、突起の短縮化を起こし、その内部でp38のリン酸化(慢性炎症のマーカー)が生じます。



活性化されたグリア細胞からは、以下の炎症性サイトカインが放出されます。


  • TNF-α(腫瘍壊死因子-α)
  • IL-1β(インターロイキン-1β)
  • IL-6(インターロイキン-6)


これらの炎症性サイトカインは、神経細胞に対して直接的な作用を及ぼし、神経興奮性を亢進させます。


参考)脊髄ミクログリアに発現するモルヒネ誘発性痛覚過敏の原因分子を…


ミクログリアの異常活性化は、オピオイドの長期投与時にも生じ、痛覚過敏の発現に重要な役割を果たしています。


全身性炎症による痛覚過敏には、脳内痛みネットワークの可塑的変化が関与していることが示唆されています。


参考)KAKEN — 研究課題をさがす


科研費:全身性炎症による脳内痛みネットワークの可塑的変化と痛覚過敏への関与の解明
この研究では、全身性炎症モデルマウスを用いて、腕傍核-扁桃体中心核(CeA)経路の可塑的変化が痛覚過敏に関与することが明らかにされました。


慢性疼痛の病態生理学では、以下の特徴が観察されます:



  • 中枢性感作では痛覚過敏・アロディニア・疼痛範囲拡大と画像所見との乖離
  • 定量的感覚検査(QST)や広範囲の圧痛評価が有用
  • 線維筋痛症、非特異的慢性腰痛の一部で認められる
  • 変形性膝関節症にも中枢性感作が関与


痛覚過敏の治療には、原因に応じたアプローチが必要です。炎症性の場合は消炎鎮痛剤、中枢感作の場合は神経障害性疼痛治療薬や下行性疼痛抑制系を標的とした薬物療法が有効です。また、ストレスや不安が関与する場合は、SSRIや認知行動療法の併用も検討されます。



Physio Approach:末梢神経感作・中枢神経感作
末梢神経感作と中枢神経感作の違いを理解することは、適切な治療方針の決定に不可欠です。

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