
日本消化器病学会は2026年4月、「消化性潰瘍診療ガイドライン2026(改訂第4版)」を発行しました。前版(2020年・改訂第3版)から約6年ぶりの改訂で、GRADEシステムの考え方を取り入れ、エビデンスレベルと推奨の強さを設定している点が特徴です。
参考)https://www.nankodo.co.jp/g/g9784524272914/
本ガイドラインの最大の特徴は、従来の標準化された治療体系から、患者背景や耐性菌、併用薬リスクを踏まえた「個別化医療(precision medicine)」への転換にあります。
参考)https://hokuto.app/post/ENCvZKSTxXJzccUknzQT
特に以下の3点に本質的な意義があります。
これは単なる「推奨の更新」にとどまらず、「診療パラダイムそのものの変化」を示していると専門家は指摘しています。
書籍は南江堂から発行されており、B5判204ページ、定価4,620円(税込)で、2026年4月1日に発売されました。
参考)消化性潰瘍診療ガイドライン 2026 改訂第4版 : 有隣堂…
第2章「出血性胃潰瘍・出血性十二指腸潰瘍」では、以下の3つの主な改訂点が注目されます。
1.「内視鏡的止血」から「再出血予防を含む管理」へ
前版では内視鏡的止血治療に関するbackground question(BQ)が4項目設けられていましたが、第4版では2項目へ整理されました。内視鏡的止血治療法の対象となる潰瘍や輸血の対象が除外され、止血後管理や薬物療法戦略に重点が置かれる構成へと変化しています。
また、治療法としてover-the-scope clip(OTSC)法が新たに追記されています(BQ2-1)。
2. ボノプラザンが止血後管理の選択肢に
前版では止血後管理における酸分泌抑制療法の中心はプロトンポンプ阻害薬(PPI)でしたが、第4版ではカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)であるボノプラザンについても、弱い推奨ではあるが新規に提案されています(CQ2-1)。
P-CABは迅速かつ強力な酸分泌抑制作用を有し、胃内pHを安定して高値に維持できることから、高い再出血予防効果が期待されています。
3. 抗血栓薬管理が「一律の休薬」から「個別リスク評価」へ
前版では抗凝固薬・抗血小板薬服用中の休薬の必要性がCQとして扱われていましたが、第4版ではBQへ整理されています(BQ2-4)。また、ワルファリンのヘパリン置換の推奨や考慮が削除されています。
この変更は、抗血栓薬の内服を継続しながら内視鏡的止血を行う症例が増加している実臨床を反映したもので、心血管イベントリスクと出血リスクのバランスを個別に評価する重要性が強調されています。
日本消化器病学会の消化性潰瘍ガイドライン概要ページ。GRADEシステム採用と会員専用公開の案内があります。
第3章「H.pylori 除菌治療」では、除菌療法のレジメン選択や薬剤感受性検査の活用について、より詳細なエビデンスが示されています。
参考)消化性潰瘍診療ガイドライン 2026 / 日本消化器病学会【…
特に注目すべきは「泥沼除菌」という新たな課題です。これは、複数回の除菌療法を繰り返しても成功しない症例を指す言葉で、第4版ではこの問題に対する体系的なアプローチが提案されています。
泥沼除菌の背景には以下の要因が考えられます。
ガイドラインでは、薬剤感受性検査の実臨床導入が推奨されており、これにより個別化された除菌療法の選択が可能になっています。
また、後発医薬品(ジェネリック)の活用や、患者背景に応じたレジメン選択の重要性も強調されています。
参考)「消化性潰瘍診療ガイドライン」改訂、ポストピロリ時代に対応/…
南江堂の消化性潰瘍診療ガイドライン2026書籍詳細ページ。Minds作成マニュアル準拠とCQ・BQ・FRQの構成説明があります。
第6章「非H.pylori・非NSAIDs潰瘍」では、H.pylori 陰性かつNSAIDs 非服用の消化性潰瘍に対する診断と治療のエビデンスが示されています。
参考)https://www.maruzenjunkudo.co.jp/products/9784524272914
ガイドラインでは、これらの患者に対する酸分泌抑制薬の適切な使用や、生活習慣の改善、定期的な内視鏡フォローアップの重要性が強調されています。
参考)https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/syoukasei2020_2.pdf
意外な点として、非H.pylori・非NSAIDs潰瘍の患者では、長期的な維持療法の必要性が示唆されており、再発予防のための継続的な酸分泌抑制が推奨されています。
第5章「薬物性潰瘍」では、NSAIDsや抗血栓薬を含む様々な薬剤による潰瘍の予防と治療について、最新の知見が示されています。
特に注目すべきは、抗血栓薬関連潰瘍の体系的管理です。前版では、抗凝固薬・抗血小板薬服用中の休薬の必要性がCQとして扱われていましたが、第4版ではBQへ整理され、個別リスク評価の重要性が強調されています。
薬物性潰瘍の予防策として、以下の点が挙げられます:
また、抗血栓薬の内服を継続しながら内視鏡的止血を行う症例が増加している実臨床を反映し、心血管イベントリスクと出血リスクのバランスを個別に評価する重要性が強調されています。
意外な点として、ワルファリンのヘパリン置換の推奨や考慮が削除されており、これは最新の臨床エビデンスに基づいた判断です。
本ガイドラインの重要なテーマである個別化医療の課題として、長期酸分泌抑制療法の安全性について、あまり知られていない視点を解説します。
長期的なPPIまたはP-CABの使用は、以下のリスクと関連している可能性が指摘されています:
ガイドラインでは、長期酸分泌抑制療法が必要な患者に対して、定期的な電解質やビタミンB12レベルのモニタリング、最小有効用量での使用、可能であれば間欠的療法の考慮が推奨されています。
意外な点として、P-CAB(ボノプラザン)はPPIと比較して、より迅速かつ強力な酸分泌抑制作用を有しますが、長期使用の安全性については、まだ十分なエビデンスが蓄積されていない現状があります。
このため、長期酸分泌抑制療法が必要な患者に対しては、PPIとP-CABの使い分けを個別に評価し、患者背景や耐性菌、併用薬リスクを踏まえた選択が重要となります。
HOKUTOの消化性潰瘍ガイドライン改訂解説記事。中路聡氏による出血性潰瘍の3つの改訂点の詳細解説があります。