
モロー反射が「どこに出現するか」という問いに対して、解剖学的・神経学的な答えは「脳幹レベルの反射中枢によって制御される全身反応」となります。この原始反射は、脊髄レベルの反射(手掌把握反射など)とは異なり、体幹全体と両上肢・両下肢を巻き込む大きな反応として現れるのが特徴です。
具体的な中枢位置については、脳幹の中でも特に橋(はし)から中脳にかけての領域が関与していると考えられています。医療従事者として知っておくべき重要な点は、モロー反射が「脳幹の成熟度」を反映する指標であるという事実です。
参考)【人間発達学②】原始反射・反応(ガラント反射・モロー反射・非…
脳幹は呼吸や心拍といった生命維持機能を司る極めて原始的な神経中枢であり、ここが機能していることがモロー反射の出現条件となります。つまり、モロー反射が正常に出現することは、赤ちゃんの脳幹が正常に機能していることを間接的に示しているのです。
モロー反射が実際に「どこに・いつ出現するか」を時期の観点から説明すると、在胎27週頃からです。これは妊娠7か月に入る頃であり、早産児であってもこの週数を超えていればモロー反射が観察可能となります。
参考)モロー反射
意外な事実として、モロー反射の消失は「首が完全にすわる(定頸)」とほぼ同時期に起こります。これは、大脳皮質の成熟によって脳幹レベルの原始反射が抑制され、より高次な運動制御が可能になるためです。
モロー反射が「体のどこに出現するか」という質問に対しては、「全身、特に両上肢・両下肢・体幹」と答えるのが正確です。これは、脊髄レベルの反射が局所的であるのに対し、脳幹レベルの反射が全身を巻き込むためです。
参考)小児のカイロプラクティックより(新生児の神経学的反射:モロー…
具体的な反応の経過は以下の2相に分かれます。
この一連の動きは、赤ちゃんが「落下しそうになった時に、近くのものにしがみついて落下を防ぐ」という進化的な生存戦略を反映していると考えられています。
医療従事者が特に注意すべき点は、反応の「左右対称性」です。モロー反射が左右非対称である場合、以下の病態が疑われます:
したがって、新生児神経学的検査では、モロー反射の「有無」「強弱」「左右差」をすべて記録することが推奨されます。
参考)小児神経学的検査チャート作成の手引き - 一般社団法人 日本…
モロー反射を臨床現場で「どこに・どのように出現させるか」について、標準的な検査方法を解説します。この検査は、新生児期と1か月健診で routinely 行われるべきものです。
標準的な検査手順:
1. 乳児を仰臥位(背臥位)にする
2. 検者が両手で乳児の頭部を後頭部から支える
3. 頭部を約15~30cm持ち上げる
4. 支えをはずし、頭部を2~3cm「急に」落下させる
5. 両上肢・両下肢・体幹の反応を観察する
参考)EQWEL TiMES
重要なポイントは、「急に落下させる」という刺激です。ゆっくり下げるとモロー反射は誘発されません。ただし、「落下」といっても実際に赤ちゃんを落とすわけではなく、検者の手で支えながら数cm位置を下げるだけです。
参考)EQWEL TiMES
もう一つの検査バリエーションとして、以下のような方法もあります。
この検査を行う際の注意点として、乳児を転落させたり頭部を打撲させたりしないよう、十分な注意が必要です。また、赤ちゃんを怖がらせないため、大げさな方法で行うべきではありません。
小児神経学的検査チャート作成の手引き - 一般社団法人日本小児神経学会
ここまでは正常なモロー反射の出現について解説してきましたが、医療従事者として特に重要なのが「モロー反射が出現しない、または異常な出現を示す場合」の鑑別診断です。
モロー反射が出現しない・減弱している場合:
モロー反射が左右非対称の場合:
特に注意すべきは、モロー反射の左右差が「分娩時の外傷」を示唆している場合です。新生児の片側だけモロー反射が弱い、または出現しない場合、その側の腕神経叢に損傷が生じている可能性があります。
これらの状態は、単なる「個人差」ではなく、医学的介入が必要な病態であるため、医療従事者は見逃してはいけません。
最後に、医療従事者でもあまり知られていない「大人になってもモロー反射が残存している場合」について解説します。これは、原始反射の「統合不全」と呼ばれる状態です。
通常、モロー反射は生後3~4か月で消失しますが、何らかの理由で統合が完了せず、成人期まで残存することがあります。この状態は、発達障害(特にADHDや自閉スペクトラム症)との関連が指摘されています。
参考)https://www.ceresyuru.com/blog/detail/id=148
成人におけるモロー反射残存の徴候:
チェック方法(成人の場合):
1. がに股(股関節外旋位)と内股(股関節内旋位)で歩いてもらう
2. 腕の振りを観察する
3. 腕がロボットのようにぎこちない、または左右差がある場合、モロー反射残存の可能性
この「モロー反射残存」は、小児の発達障害だけでなく、成人の慢性バランス障害や学習障害との関連も報告されています。

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